2004年9月
 

 家族の将来の経済的安定を保証するために配偶者、子供たちなどを保険金受取人(BENEFICIARY)に指定して生命保険を掛けている方がたも多いと思います。今日は、ESTATE PLANNING(財産・資産計画)の際に生命保険をどのように扱えばよいかについて、考えてみました。信託(トラスト)の設定を行う際に、生命保険の名義については、信託の受託人(トラスティー)名義に変更すべきか否かというような質問をよく受けます。
 生命保険金の受取人(BENEFICIARY)は当該生命保険の被保険者が亡くなった時点で保険金を受け取りますが、この保険金は通常は所得税の対象になりません。しかし、通常は受け取った保険金は、ESTATE TAX(遺産税)の対象になります。遺産税が賦課される下限額は現時点では一人につき150万ドルです。この額は、2009年まで段階的に増額されることになっており、新たにこの法律を延長・変更する法律が議会を通過しない限り、2010には下限額がなくなり遺産税は事実上無くなるという状況になりますが、2011年には逆戻りして、下限額が100万ドル、その額を超える部分の遺産税率は55パーセントになると予想されます。大変妙な状況ですが、今後2011までの遺産税の控除額と税率は下記のとおりです。


 既存の生命保険のオーナー(契約者)や保険金の受取人を信託などに変更すべきか否かという決定には、いくつかの重要な点を考慮する必要があります。まず第一に遺産税の対象となる総資産が上記の表に照らして遺産税賦課の控除額を超えているか否かという点です。例えば今年、被保険者が亡くなり受け取る保険金が200万ドルであれば、現時点で遺産税の対象となる下限額150万ドルを50万ドル超えていますので、生命保険金のみを考慮しても、この50万ドル分については遺産税が掛かります。他の資産と合算した場合は遺産税が掛かる額はより大きなものになるでしょう。また、保険金が50万ドルである場合でも、他の遺産(不動産、動産などの合算)を全て合わせて150万ドルまでという制限がありますので、合算して150万ドルを超えていれば、その超過分に関しては遺産税の対象になります。
 幸い生命保険金については、生命保険の契約書(オーナー)と被保険者を同一人物にしておけば、被保険者が亡くなった時点で受取人が受け取る保険金はDEATH BENEFITとしてプロベート(遺産検認)の対象にはなりません。一般的には、必ずしも保険の契約者(オーナー)を信託(通常はREVOCABLE LIVING TRUST)の受託人名義に変更する必要はないともいえます。

 しかし、すでに信託(生前撤回可能信託:REVOCABLE LIVING TRUSTリボーカブル・リビング・トラスト)が設定されている場合は、受取人(BENEFICIARY)を信託受託人にしておきますと、被保険者が亡くなった時点で保険金は信託が受け取ります。保険の掛け金は夫婦の共同財産から支払われたものとみなされますので、この保険金も被保険者の一方の配偶者が亡くなった時点で夫婦の共同財産とみなされ、半分づつ亡くなった配偶者の遺産と生きている配偶者の財産に振り分けられます。これは、税金対策上有利です。
 一般に、特別に生命保険信託を設定しない限り、最善の生命保険受取人はリボーカブル・リビング・トラストの受託人(トラスティ)でしょう。通常は、第一番目の生命保険金受取人はリボーカブル・リビング・トラストの受託者(トラスティー)とし、第一番目の受取人が受け取り不可である場合のために第二候補の受取人として、相手側配偶者を指定しておきます。そして、念のために第三候補受取人として子供を指定しておきます。


 別に生命保険(専用)信託を設定することもできます。このような生命保険信託は、上記の遺産税控除額を超えて資産がある場合に有利です。生命保険信託にも撤回可能(REVOCABLE)と撤回不可能(IRREVOCABLE)なものとの2種類あります。撤回不可(IRREVOCABLE)生命保険信託を設定する場合は、契約者(オーナー)と受取人の両方を当該撤回不可(IRREVOCABLE)生命保険信託にしておきます。この場合に注意を要する点は、預託者(トラスター)が同時にこの生命保険信託の受託者(トラスティー)でないようにすることです。つまり、被保険者が、同時にこの生命保険信託の預託者でありまた受託者であるというような設定を避ける必要があるということです。通常は、成人した子供などを受託者として指定しておきます。同時に、この生命保険の掛け金を個別の資金源(別の銀行口座など)から支払うようにし、贈与税の免税範囲$1,100を超えないで掛け金の支払いが行われていることの証拠をいつでもIRSに対して示せるように明らかにしておきます。


 このようにしておくと、生命保険金の全てをESTATE TAX(遺産税)の枠外にすることができます。現時点で合算した全資産が夫婦二人で300万ドルという遺産税対象下限額を超える資産があり(または将来控除額が減額された場合はその下限額を超える資産がある場合は)、ESTATE TAX(遺産税)が相当額賦課される恐れがある場合に有効な節税手段となります。また、生命保険信託を設定することにより、(他の合算遺産について)遺産税を払う必要がある場合でも短時間で現金を遺産税の支払いに回すことができ、他の財産を短時間で売却して税金の支払いに充当する必要に迫られ、売り急ぎにより損失を蒙る心配がなくなります。生命保険信託に入れられた生命保険金は、オプションとして、最初の配偶者(被保険者)が亡くなった時点でその配偶者に掛けられていた保険金が入り、その後残りの配偶者(やはり被保険者である場合も、また被保険者でない場合もある)が亡くなってから10ヶ月後(つまり該当するESTATE遺産に関する生命保険信託に入る保険金を除外した部分についての遺産税の支払いが完了した後)に遺産税の対象となることなく相続人のものになるように設定できます。これは、この亡くなった両配偶者のどちらも当該生命保険の契約者(オーナー)ではなかったためにその生命保険金は遺産税の対象とならないからです。別のオプションとして、一方の配偶者が亡くなった時点で相続人に保険金が渡るようにすることもできます。


 一つ注意を要する点は、既存の生命保険の契約者(オーナー)と受取人を生命保険信託またはリボーカブル・リビング・トラストに変更した場合、3年以内に被保険者が亡くなると例外が適用されず遺産税の対象になってしまうことです。これを回避するためには、既存の生命保険をキャンセルして新たに生命保険信託またはリボーカブル・リビング・トラストの受託者(トラスティー)が契約者となりトラストから掛け金を支払うことですが、既存の生命保険をキャンセルし新しい生命保険に加入することによる損失を考慮して、実際にこのような変更が有利か否か決定する必要があります。


 生命保険のキャッシュバリュー(その時点で現金化した場合の価値)が高い場合には、契約者(名義)の変更によりその価値が贈与されたものとみなされ、贈与税の対象になってしまう場合もありますので、注意が必要です。いわゆるターム・ライフ(保険期間を定めた生命保険でキャッシュバリューがゼロ、つまり現金化できない種類)の場合には、このような配慮は必要なくなります。このような生命保険は、保険適用期間内に被保険者が亡くなった場合にのみ保険金が支払われるようになっていますので、当該保険適用期間中に被保険者が亡くならなかった場合にはその生命保険の価値はゼロ(つまりキャッシュバリュー・ゼロ)となるからです。


 次回は、信託の設定とIRAなどの受取人(BENEFICIARY)の指定との関係について考えてみましょう。