2001年2月

  今回は、例を挙げてより具体的に破産の効果と制約についてより詳細に見てみましょう。自己所有の自宅などがどのような取り扱いを受けるかというような問題についてアリゾナ州におけるホームステッド法(家産差し押さえ/強制競売免除法)の原則とも関連させて考えてみましょう。
先回お話いたしましたように、個人が関わる破産として最もよく使われるのは、第7章破産と第13章破産です。


第7章破産


 第7章破産は、「清算」破産ですから原則的には財産を売却して借金の返済に当てることになります。しかし、破産者の生活を保護するために一定の例外(免除)があります。住宅を所有している場合、一定の条件を満たせば家の売却を避けそのまま家に住み続けることができます。破産した時の状況として、それまでにすでに毎月のローンの支払いが遅れている場合(つまり数ヶ月にわたってローンの支払いをしていないなど)は、第7章破産を申請すると、多くの場合家を売却しなければならないことになります。破産申請後に停止になっていた譲渡抵当実行手続き(foreclosure)に対し、銀行、ローン会社など貸し手の側で破産裁判所に手続き再開を申請することになります。裁判所命令で譲渡抵当実行手続き(foreclosure)が再開し、競売などにより家の売却が実施されます。売却した金額から借金と諸経費を差し引いた残りがあれば破産者の元にある程度の金額が返ってくることもありますし、差し引きゼロになる場合もあるでしょう。ローンの支払いが滞っていない場合は、家が売却の対象になるか否かはそれまでにどれ位の持ち分(エクイティ:売却額から住宅ローンの返済額を引いた額)を蓄積・所有しているによって決まります。売却額から住宅ローン額を差し引いた後にエクイティが全く残らない、またはマイナスになる場合(つまりローン額が家の現在の市場価値より大きい場合)には家を売却しても債権者への借金の返済に当てることができないため、破産者がローンを払い続けることができる場合にはそのまま売却されないままになることが多くなります。売却額が市場価格より高い場合は、プラスのエクイティがあることになり、破産管財人は家を売却し、その差額を別の債務返済に充当しようとすることになります。しかし、この場合もそれぞれ居住する州が定めるホームステッドの例外免除の額と売却額との関係がどうなるかによって結果が異なります。エクイティ額がホームステッド例外免除で保護されている額を超えない場合には、売却する意味がなくなりますから通常売却は実施されません。アリゾナ州では住宅の持ち分の10万ドルまでがホームステッド例外免除の対象になります。つまり、売却額から住宅ローンを差し引いた額が10万ドルを超えない限り売却しても意味がないことになります。この場合は、破産者がローンの支払いを続ける限り家に住み続けることができます。一つ注意が必要なことは、ホームステッドの例外免除規定が適用されるためには、破産者は対象となる家に居住しているという条件を満たさなければならないことです。この法律は、別荘や賃貸用・投資用に所有している不動産には適用されません。


 第7章破産で家を売却される可能性がある場合、つまりエクイティの額がホームステッド例外免除額より相当大きい場合は、第13章破産を申請して長期にわたってローンの返済を続けることにより売却を回避する方法がより望ましいでしょう。


 ローンの返済が延滞している場合には、銀行やローン会社などの貸し手と交渉することにより、未払い分と将来の毎月の返済額を新たに計画配分して返済を続けることができるでしょう。それまでの未払い分、税金、住宅保険などを支払う限り、そして貸し手がすでに即時全額返済要求(Acceleration)手続きを行っていない限り譲渡抵当実行手続き(foreclosure)を回避できるでしょう。


第13章破産


 第13章破産の場合、ローン返済が延滞し貸し手がすでに即時全額返済要求(Acceleration)をした後でも未払い額を払い、ローンの返済を毎月続けて行うことによって譲渡抵当実行手続き(foreclosure)を回避できます。譲渡抵当実行手続き(foreclosure)が開始された後でもそれまでの未払い分を支払い、その後のローン返済を続けて行く限り、この手続きがどの程度まで進行しているかにもよりますが、場合によっては譲渡抵当実行手続き(foreclosure)実施を中止させ家に住み続けることもできます。しかし、譲渡抵当実行手続き(foreclosure)により家がすでに売却された後では、その取引をキャンセルすることはできませんので、家を失うことになります。場合によっては、ローンの延滞を原因として貸し手である銀行、ローン会社が譲渡抵当実行手続き(foreclosure)を開始した後に、第13章破産を申請して取り立てや譲渡抵当実行手続き(foreclosure)そのものを一時停止させて、その間に家を売却して借金の返済をしてしまうということもできます。譲渡抵当実行手続き(foreclosure)で売却するより、破産による売却手順を踏む方がより良い条件・価格での売却が可能であり、所有者にとって有利でしょう。破産管財人は、できる限り高い価格で売却できるように最善の努力をするでしょう。それに比較すると、譲渡抵当実行手続き(foreclosure)の場合の売却価格は投げ売りのように安くなる場合があります。


その他の財産


 その他の財産、つまり自動車、家具などについてはどうでしょうか。第13章破産では、多くの場合毎月の返済額を調整する交渉後、その支払いの予定額を払い続ける限り、自動車その他の動産を保持できます。第7章破産の場合は、例外免除対象でない項目は売却されその売り上げは債権者への支払いに充当されます。州によって例外免除項目・金額は異なっていますが、アリゾナ州では、自動車については$1500までのエクイティ(持ち分)、$4000に相当する家具、衣類、台所器具、冷蔵庫、テレビ、ライフル銃、洗濯機と乾燥機、ステレオ、掃除機、銀行口座残高$150、$250に相当する本、$500に相当する衣類、$1000ドル分の婚約・結婚指輪、$100相当の時計、$250相当の楽器など、職業上必要な$2500相当の本や道具類、$2500相当の農機具などが免除項目として規定されています。


債務には担保付きのものと無担保のものがあります。自動車ローンなどの場合はほとんど自動車そのものが担保になっており、ローンが完済されない限り、完全に自由な所有権を手にいれることはできません。つまり、例え破産過程で債務そのものは解消されたとしても、担保設定が除去されませんので、完全に自由な所有権を得ることができず、その後もローンを完済しない限り、債務不履行に起因する売り手による商品回収(Repossession)の心配があるわけです。この場合でも、状況によって改めてその商品のその時点での市場価格を支払うことによって担保を除去することも可能です。対照的にクレジットカード・ローンの場合は、無担保ですから破産手続きにより解消されれば完全に債務はなくなります。


破産の影響


 破産を申請すると、将来的にどのような影響があるでしょうか。信用調査情報には、破産の記録が10年間保存され閲覧の対象になります。破産後にクレジット・カードを申請したり、住宅を賃貸したり、その他の取引を行う際に参考情報として第三者が参照できます。しかし、実際には10年間待つことなくクレジット・カードの発行会社は過去の破産者に対してもカードを発行します。


 長い人生、病気、失業、離婚、事業の失敗、その他の事情などにより経済的困難に直面することもあるでしょう。破産を申請した方が良いか、破産を申請するとしたら第7章破産と第13章破産のどちらが有利か、破産以外の良い解決策が他に存在しないかなどについては、いろいろと複雑な要素も関わってきます。個別的な条件により異なる方法が求められるでしょう。必要に応じて専門家に相談の上、最も適正な手段を選択してください。