1999年8月

このところ移民法に関する相談事が多くなっています。今日は、これまでに私の元に寄せられた相談からカテゴリー毎に問題点、傾向などを皆様の参考のためにまとめてみましょう。


学生ヴィザからプラクティカル・トレーニングそしてH1-B、またはグリーンカード申請へ


 一番多い相談は、現在アリゾナに居住してらっしゃる方々からのもので、プラクティカル・トレーニングなどのヴィザで在留許可を得ている方々、学生の方々から「どうすれば、実際にスポンサーになってくれる会社を探し、H1-Bヴィザまたはグリーンカードをもらえるか」、または「スポンサーは既に探したが、どうしたらスムーズにヴィザを現在の雇用主である会社から次ぎの会社に変更できるか」などという質問です。相談の中で割合に多かったのは、プラクティカル・トレーニングの期間がもう少し(二ヶ月など)で切れる、とかもう切れてしまったという逼迫した様子の方々です。結論的にいうと、プラクティカル・トレーニングの後ヴィザの申請をしてくれる雇用主を探すのも相当に時間がかかり、またさらにそれからヴィザの申請をして実際に許可が下りるにはやはり相当時間がかかるのが実情なので、二ヶ月の猶予期間という場合や、また既に期限切れになっているという場合は、そのまま米国に滞在して切り替えをスムーズにするというのは難しいでしょう。プラクティカル・トレーニングの期間が終了すれば、その資格で滞在することはできなくなるわけで、その他の在留資格がなければ「違法滞在」ということになってしまいます。


 皆様もうすでにご存知のことと思いますが、「違法滞在」の状態で六ヶ月以上一年未満米国に滞在して移民局に発見されると三年間は米国に入国できなくなります。「違法滞在」期間が一年以上になると十年間は米国に入国できなくなります。厳密には、学生ヴィザが切れたりプラクティカル・トレーニング期間が終了してからも就職活動・スポンサー探しでそのまま米国に滞在し続ければ、カテゴリーによって一定の猶予期間の後には「違法滞在」状態になってしまいます。H1-Bの場合には、スポンサー企業からの退職など、一度有効期間が終了すると、猶予期間はありません。つまり、次ぎの日から「違法滞在」になります。
 米国で就職し長期に滞在したいという希望がある方は、「違法滞在」となる期間を避けるためにはプラクティカル・トレーニング期間が始まったら(その前でも良い)すぐに次ぎの雇用主・スポンサーを見つけ出さないとヴィザ申請の手続きが間に合わないかもれないということを意識しておく必要があるでしょう。次ぎの雇用主によるヴィザの申請が前の在留許可の期限が切れる前に完了しない場合は、原則的には日本に帰り日本の米国大使館を通して日本から再度ヴィザを申請することになります。


 このような状況にある方々は、専門家・技術者に与えられるH1-Bヴィザを希望する方々が多いようです。「H1-Bヴィザを取るのは、どの位大変ですか」、「またどの位の期間が掛かりますか」、「どんな職種が取りやすいですか」という質問も多く出ます。「ゴルフのインストラクター」、「ナーシングホームの職員」、「看護婦」、「社会福祉関連業務(法律的問題を起こした未成年者の更正施設の職員や養護施設の職員)」、「マッサージ師」、「コンピュータのプログラマー」、「データベースの管理者」などいろいろな職種について質問がでました。結論的にいうと、個別にそれぞれ「難易度」は異なるようですが、看護婦、保健医療関係特にナーシングホームの職員、未成年者の更正施設職員、コンピュータのプログラマーやデータベースの管理者など希望者の数が必要数を圧倒的に下回っている職種の場合に比較的、H1-Bヴィザが出やすいという傾向があるようです。事実、H1-Bの発給枠の中で結果的に取得の圧倒的多数を占めるのはコンピュータ・プログラマー、オラクルなどのデータベース関連の技術者などです。


 しかし、それらの職種であればすぐにH1-Bヴィザの取得ができるかというと、毎年同ヴィザ用に与えられる限度枠に比して希望者数が圧倒的に多いために申請手続きには長期間を要します。6月 日付けの日経新聞の記事にも紹介されたように、ハイテク産業中心のH1-Bヴィザの発給枠は 会計年度(1998年 月から99年9月まで)と2000年会計年度(1999年 月から2000年9月まで)には98会計年度(1997年 月から1998年9月まで)の発給数6万5000から十一万五千人に増やしたものの1999年の前半には既に発給枠の上限に達し、現在、 月からの次年度の発給枠を待っているところです。 月に発給が再開されると同時に、ここ数ヶ月申請待機していた人々のヴィザ申請が雪崩れのように数多く処理されることになり、優先的な職種と言っても、どの職種であれ、短期間に申請手続きが完了する、または容易に完了するとは誰にも保証できません。ハイテク産業は、このようなH1-Bのヴィザの発給枠を緩和または撤廃するように運動していますが、いつ法律が変更されるという明確な予想は立っていません。現在の状態では、優先的な職種であれば、正確にどの位時間が掛かるか分からなくてもスポンサーとなる企業を見つけ、申請手続きを開始して様子をみるという方法しかないようです。また、将来H1-Bヴィザ取得を希望する方は、上記のような優先的なカテゴリーの職種に就けるように職業的・技術的な訓練を受け十分準備をして同ヴィザを申請することが戦略上賢い方法でしょう。


グリーンカードの延長


 グリーンカードを付与されると、これを「永住権」の証であると考えてしまう人もありますが、グリーンカードは「永住」の「権利」を保証するものではありません。あくまでも滞在許可ですから、取り消されたり期限切れになったりする可能性もあります。時によっては、グリーンカードを取得してから、日本に帰国しそのまま日本に居住しながら一年に一度1、2週間米国に来ているだけでグリーンカードを保有し続け永住する「権利」があると信じてしまう人もあります。しかし、理論的にはグリーンカードはあくまでも米国に永住を希望する人のためにあるものですから、移民局(INS)の係官が特定の人を「米国に永住する意図なし」と判断すればグリーンカードを取り上げられてしまう場合もあります。
 もう一つグリーンカードで注意を要するのは、有効期限があるということです。相談を受けた中で、複雑な事情でグリーンカードの延長を「忘れていた」とか「申請する余裕がなかった」ために怠って、有効期限が切れ、現在厳密に言えば違法滞在状態になっているという場合もありました。あるケースでは、米国人と結婚した日本女性が「英語がよく分からない」、「夫に全てを任せていた」などという理由で自分の在留資格がどうなっているか全く知らないという場合がありました。後で調べてもらうと、以前にグリーンカードは所有していたが、期限切れになったのに「誰も気がつかずに」放置されており、その日本女性は違法滞在になっていました。この女性の場合は、子供が3人いて一番下の子供だけが現在の夫との子供で、米国で出産したので自然に米国籍でした。しかし、その上に前の夫との間に二人の子供がおり、この二人はこの女性の現在の夫とは養子縁組(Adoption)していなかったので、日本国籍のままでした。この場合、上の二人の子供も適正なヴィザがない状態で放置されていました。「夫に全て任せていた」というこの女性は、自分と子供が違法滞在状態になっていることに愕然としていましたが、移民局の係官に「夫に任せていた」という弁解は効果がないでしょう。米国人の夫と結婚していて、現在も米国に家族として住んでいるという事実が情状酌量の余地ありとみなされるかもしれませんが、そのような特例的措置を頼みの綱にするのは、あまりにも危険でしょう。


 以前の夫との間の子供を連れて米国人の夫と再婚した日本女性が自分の連れ子と再婚した夫との養子縁組をせず、またその子供が未成年のうちにグリーンカードを取得した母親を通してグリーンカードを取得したものの、その後18、9才の頃にグリーンカードが無効になって(期限切れになったという説明)、そのまま延長していないというケースがありました。子供はすでに成人しています。子供は日本国籍のまま幼い頃から米国で英語を母国語として成長し、日本とはあまり接触せず、文化も共有せずに暮らして来ました。現在は、日本の国籍のまま、外見は普通のアメリカ人として暮らしながら、実は米国に違法滞在していることになります。


 この両方の場合、子供たちは、年齢の差こそありますが、同じような不便を被ることになります。まず第一に、米国のパスポートが取得できません。「違法滞在」ということが当局に発見されて、「母国」(パスポートを所有している国)に強制送還または自主的に帰国したとしても、上記のような入国禁止の影響を受け長期にわたり米国に戻って来られないという状況も考えられます。最初のケースの場合、7、8歳の子供たちで、二番目のケースの場合は、 代初期の青年ですが、そのまますぐに日本で暮らせと言われても、例え国籍は日本でも、日本語もできず、日本で暮らすことは容易ではありません。


グリーンカード申請


 グリーンカードの延長どころか、長年の結婚生活にもかかわらずグリーンカードの申請そのものができていない場合もありました。日本人の女性で米国人の男性と結婚し、「グリーンカードを申請してあげるから」と言われてその言葉を信じていたら全く申請しておらず、数年して気付いたら「違法滞在状態」になっていた、という例もありました。「夫の言葉を信じていた」と言っても、「違法滞在状態」になっていれば法律違反を犯しているのは本人ということになりますから、それは法律的抗弁の根拠にはなりません。自分のヴィザと子供のヴィザについて、自分でしっかりと状況を把握し、申請、延長申請など必要事項や有効期限などを明確に記録して、「違法滞在」にならないように法的要件を満たすべく自分で管理する必要があります。


投資家(駐在員)用ヴィザとその家族のヴィザ


  ヴィザで米国に勤務している方のお子さんが 才になり、日本で別のヴィザに切り替えて米国に帰ってきたところ、入国の際に入国審査官が間違えて(本人が適正なカテゴリーに直してくれるように注意を喚起したのにもかかわらず)再度 ヴィザを交付してしまったというような例もありました。この場合、誤り(結果として違法滞在をもたらした)は入国審査官の側にあったのですが、INS当局に問い合わせて調査をした結果、どのような事情であれ、例えINSの入国審査官が間違えた場合でも、「違法滞在」状態になっていればあくまでも「本人の責任」であり、INSは責任を取る必要なし、という原則であることが分かりました。この場合も厳密に言うと、間違ったヴィザを発給されたお子さんは、まず日本に帰り、再度適正なヴィザを取得しなおしてから米国に入国しなければならないということが分かりました。いずれにしても、精神的な意味でも経済的な意味でも、本人にとっても、親御さんにとっても大きな負担をもたらす結果となるでしょう。やはり、普段からのヴィザの管理と、入国審査官の行動にも注意しなくてはならないことになります。


老親の呼び寄せ


 次第に年老いてくる両親(片親が残っている場合が多く、父親か母親のどちらかに関する相談でしたが)を呼び寄せるにはどうしたら良いかという相談もありました。米国での生活をエンジョイして気がついたら親が高齢者になっていた、という状況にある方も沢山いらっしゃることでしょう。アリゾナに呼び寄せて暮らしたいと望んでいらっしゃる方も多いことでしょう。最近、母親を呼び寄せられた方の例もあります。このケースでは、母上の「アリゾナで娘と一緒に暮したい」という承諾を得て、東京の米国大使館で全ての手続きをしました。アリゾナで両親呼び寄せの手続きを開始したケースと比較すると、東京で申請した方がはるかに短期間で全手続きを完了しました。アリゾナで申請した方は、ここ数年申請はしたもののまったく進展が見られない状況です。東京で申請した方は(米国市民権をもっている日本女性が母親のためにヴィザ申請)、申請書類に書き込み、母上ご本人の身体検査など、全ての手続きを東京で迅速に完了し、4ヶ月後には母上を実際にアリゾナに連れて来ることができました。ご両親、またはそのどちらかをアリゾナに永続的なベースでお連れしたいと考えていらっしゃる方々には、日本での申請をお奨めします。