2007年6月
今回は、現在上院で議論されている移民法改正案について考えてみましょう。
この法案は、現在上院内でさまざまな改正案が提出され、法案として形成されている最中ですから、最終的な法律として成立するためには、まず上院を通過し、その後下院を通過した法案と調整するという作業が必要になります。現在のところ要点は下記のとおりです。
1. ゲストワーカー・プログラムを創設し、毎年40-60万人を期間限定で(各期間の間に1年米国外に出ることを条件に2年x3回)米国に合法的に入国させる。(Z-Visa)
2. 8年間という期間にこれまでのグリーンカード発行の遅れを解消する。その後は、
3. メリット制度(点数制度)を設けてそれぞれの入国希望者を分類し、学歴、職歴、スキルレベル、英語の習得度、市場における需要などの観点からより望ましい者から優先順位をつけて滞在許可を出す。(比較的高学歴なアジア系移民に有利、相対的に低学歴なラテンアメリカ系移民に不利)
4. これまでと比較すると、家族ベースの滞在許可)(家族の離散を避けるという観点からのVISA発行)の優先順位を学歴、職歴、スキルレベル、市場における需要に基づいたVISA発行と比較して相対的に低くする。上記8年間の期間の後、合法的移民について未成年の子供と配偶者にのみ家族ベースの永住許可を付与。これまでに特別なカテゴリーとして優先的に家族ベースの永住許可申請を行うことができた成年に達した子供、両親、その他の親戚については、優先的取り扱いを中止する。
5. 1,200万人くらい存在するといわれる「違法滞在者」に対して、雇用があり、罰金の支払いを行うことにより米国内に滞在することを許可し、将来的に必要なステップを踏むことにより、米国市民権を取得する道を開く。
6. 国境におけるコントロールを強化し、遺法移民が米国に入国できないような措置をとる。
ゲストワーカー・プログラムは、ブッシュ大統領がこれまで提唱してきた方針であり、違法滞在者に対して「社会の闇に潜む」という存在から社会の表舞台に出てくる、最終的には米国市民になる道を開くという点で画期的なものですが、移民法の改正は必要であるという認識が共通しているものの、具体的な改正点については極端に保守的な観点からリベラルな観点まで大幅な開きがあります。
今回の法案は、ジョン・マケイン・アリゾナ州上院議員、テッド・ケネディ・マサチュセッツ州上院議員、保守派として知られているジョン・カイル・アリゾナ州上院議員などが主な提案者ですが、通常はみられないような保守派とリベラル派の共同作戦となりました。
このようなある意味では大幅に異なる見解の妥協の産物である今回の法案は、右派、左派、労働界、人権保護団体、少数民族団体、などからさまざまな反対意見、賛成意見が出され、改正案も多く出されています。
ゲストワーカー・プログラムについては、レストラン・ホテルなどビジネス界、農業関係者が労働者の必要性から賛意を表している反面、労働界、リベラルな政治家などは最下層の労働者として権利を保護されていない低賃金労働者の層を作り出してしまう、その結果、米国市民、合法的永住者などの賃金を下げる効果がある、として反対意見を表明しています。高学歴、高スキル、職歴、市場における需要を強調し、家族の絆を強化するための家族ベースの滞在許可発行をこれまでより少なくするという方向性について、家族の離散という悲劇を奨励するとして、人権擁護団体、ヒスパニック権利擁護団体などが反対しています。
1,200万人くらいいるといわれている違法滞在者たちに対して、滞在許可を出し、米国市民になる道を開くという点では、多くの保守派の人々(アリゾナ・ミニッツマンに代表されるような人々)は「アムネスティ(恩赦)に他ならない」と強く反対しています。これらの人々は1,200万人の違法滞在者は一端米国外に出て、一般の外国人が母国で米国の滞在許可を申請する列の最後列に入るべきである、このような恩赦を行えば将来恩赦の恩恵にあずかれるかもしれないという希望のもとに違法滞在者の数をますます増大させる、と主張しています。これに対して、リベラル派は今回の法案で要求される「違法滞在者家族の世帯主」が一端母国に戻り、滞在許可を申請しなければならないという項目に対して、「一家離散」を奨励するもので人権擁護の観点から賛同できないという意見を述べています。
いずれにしても、「移民法の改正は必要」という点では米国全体の合意がありますが、どのように改正するのかという内容の点では、天と地ほどの開きがあり、さまざまな意見、見解を集約し、妥協をはかるということは至難の業といえるでしょう。今後の成り行きが注目されます。