2003年1月
新年おめでとうございます。2003年もよろしくお願いいたします。
さて先回は全ての米国民にとり一般的におなじみであり、多くの人々が受給者となるソーシャル・セキュリティ給付が離婚の際にどのように分割されるかについてその概要を検討しました。今回は、離婚の際にリタイアメント給付(退職後年金)、公務員または退職軍人年金がどのように取り扱われるか解説しましょう。以下はあくまでも概要であり、退職年金システム毎に異なる規則、慣行などがありますので、そのまま現実の個々の離婚に際しての財産・年金権分割のための指標とはなりませんので、ご注意ください。個々の現実の離婚に関しては、専門家による詳細な検討および各システムの研究が必要です。
リタイアメント給付(退職後給付)
アリゾナ州最高裁判所は、1984年に退職後年金は在職中の給与の支払いを後に行うものであり、在職中・結婚継続中の期間に関してはコミュニティ・プロパティ(共有財産)であるという判決を出しました(Haynes v. Haynes, 148 Ariz. 191, 195, 713 P.2d 1249, 1253 (1984) )。
名義本人が退職年金給付を受ける資格を得てから(20年連続勤務など)も勤務し続ける場合は、元配偶者への年金の支払いはどのようになるのでしょうか。アリゾナ州法は、名義本人が死亡した場合は、その本人が受給すべきであった年金について「現在の配偶者と子供」のみが受給権を有すると規定しています(A.R.S. s3 38-846)。つまり、離婚後に名義本人が再婚し、年金の受給を開始する以前に死亡した場合には、元配偶者は離婚時に分割されていた年金受給予定部分を受け取る資格を無くしてしまうことになります。この点に関しては、「後妻」が全ての年金受給権を独占するのではなく、「前妻」にも一定の割合の年金を保証すべきであるという意見もあり、論争になっていますが、これに関してどの割合で分割すべきであるというような明確な結論は今日の時点では出ていません。
退職後年金の受給資格の名義本人(以下「名義本人」)は雇用されていないその元妻または元夫の利益を害するような年金の受給種類の選択をしてはならないという判決が出ています(Irwin v. Irwin, 910 P.2d 342 (N.M. App. 1995)。これは名義本人が元妻または元夫が年金の受給権を全面的にまたは大幅に喪失してしまうような決定を一方的にしてはならないという制限を明確にしたものです。例えば、名義本人が割り増し金などの特別厚遇を受けて早期退職した場合、物価指数に応じた支給額の引き上げなどが起こった場合、その元配偶者が受ける支給額に関する利益は、前者が5年または10年間などの一定期間続けて雇用されていた期間の後に退職するという条件の下で保護されます。つまり、名義本人が通常より早期に退職して年金として受け取る額が減少した場合には元配偶者は失われたしまった(受け取れなくなった)年金受け取り額について補償しなければならないという趣旨の判決でした。
退職後年金の受給資格ができてから後も名義本人が勤務を継続する場合には、元配偶者は独自に年金の受給を開始できるようにすべきであるという主張が裁判所に出され、アリゾナ最高裁は、離婚が成立した時点で退職後年金中元配偶者の持分として計算された部分を一括して支払うべきであるという判断を示しました。その支払い方法としてはコミュニティ・プロパティ中の他の財産との相殺、または一定の期間にわたる名義本人から元配偶者への分割支払い、名義本人が実際に退職していたら給付されていたはずの金額のうち元配偶者の受給部分を名義本人が毎月支払うなど、いくつかの選択肢を挙げました(Koelsch v. Koelsch, 148 Ariz. 176 (1986) )。この支払いが遅れた場合は、名義本人の財産を差し押さえ担保にしたり、遅延金額に対して利息が課されることもあります。裁判所命令に反し、再三の催促にもかかわらず支払いを怠る場合は、名義本人は「法廷侮辱罪」とされることもあります。
名義本人の退職年金受給資格ができる前に離婚した場合については、上記のような受給金額の分割に関する裁判所の判断が明確にされていません。一般的には、名義本人の受給資格ができる以前の時点では離婚の際に元配偶者に退職年金の分割即時支払いを求める権利はないという前提で財産の分割が行われます。名義本人が退職した後は、それぞれの給付部分は退職年金を取り扱う組織(公務員退職年金組織などを含む)から直接支払われます。
連邦政府職員の退職年金
離婚に際しての連邦政府職員の退職年金権分割に関しては、連邦法で規定されています(CFR s 838.101 ミ 838, 933)。「元妻または元夫」として名義本人を通して公務員年金の給付を受ける権利は、「少なくとも18ヶ月公務員として勤務した者と少なくとも9ヶ月結婚していた者」に限定されて生じます。離婚に際して裁判所が特定しない場合は、結婚期間の割合に応じ、その期間の受給資格部分の50パーセントを自動的に元配偶者に支払うシステムになっていますが、裁判所がそれぞれの離婚の状況に応じ別の判断・命令を出す場合は当該命令に応じて支払いの手続きをします。
アリゾナ州公務員退職年金
アリゾナ州公務員として退職年金受給資格を得るためには、5年間の継続勤務が要件とされます。元配偶者が名義本人の退職年金の一部を受給するためには、名義本人が実際に受給を開始しなければならないと規定されていますが、上記のアリゾナ最高裁の判決により、受給資格が生じてから後に名義本人が勤務継続を選択する場合は、名義本人が受給を開始していたならば元配偶者に支払われたであろう金額(またはそれと同等の別の補償)を名義本人から元配偶者に支払うことになりました。
障害者年金・退役軍人障害者年金
退役軍人協会からの給付される退職年金は、離婚の際に通常の退職年金同様に結婚していた期間の割合に応じて分割されますが(Van Loan v. Van Loan, 116 Ariz. 272, 569 P.2d 214 (1977); Neal v. Neal, 116 Ariz, 590, 570 P.2d 758 (1977) )、障害者年金や退役軍人障害者年金に関しては障害者となった名義本人の独立財産とみなされるために、分割支払いの対象となりません。
まとめ
全ての場合を網羅することはできませんでしたが、離婚の際に「元配偶者」が有するかもしれない権利については、簡単に見過ごすことなく、詳細に検討する必要があるということをご理解いただければ幸いです。潜在的に存在する権利を「知らなかった」ために喪失することがないようにご注意ください。
今年の冬はいつになく寒いようです。皆様お風邪など召しませんようにお気をつけて楽しいお正月をお過ごしください。