2000年12月
今回は、雇用とAmericans with Disability Act(障害者差別禁止法)関連差別の問題を取り上げました。米国では、連邦法により雇用者が障害者を差別することが禁じられています。この差別禁止法は、すでに雇用された者ばかりでなく、就職活動中の者も対象にしています。つまり、雇用主である企業の側から見れば、従業員の募集・面接段階からこの法律を意識して行動を取らなければならないことになります。この法律は、15人以上の従業員を雇用する雇用主を対象にしています。この法律は、障害者が雇用面で差別されないようにすることを目的に立法されました。その条文を見ると、雇用主は意図的に障害者である従業員または求職者を障害者であることを理由として差別してはならないと述べています。また雇用主は、障害者である従業員に対し、「当該雇用主の事業に不当な(過度)困難をもたらさない限り」その従業員が職務を遂行できるように「合理的な便宜」をはかることが義務づけられています。(Americans with Disability Act, 42 U.S.C. s.12101, 1211)
逆に従業員・休職者の側から見ると、障害を有する者は一定の範囲でこの連邦法により保護されているということです。しかし、障害者といっても、全ての障害者があらゆる場合に雇用を保障されているという意味ではありません。この法律で保護されるためには、一定の条件を満たす必要があります。この法律の下で雇用主に対して訴訟を起こす資格としては次のような「障害者」の条件があります。まず、
(A) 生活上の主な活動の一つ以上を実質的に制限する身体的または精神的な欠陥を有する、
(B) そのような欠陥の経歴がある、または
(C) そのような身体的または精神的な欠陥があるとみなされている。(42U.S.C. s.1212(2); 29 C.F.R. s.1630.20(g) )。
一定の障害が当該職務を不可能にするか否かは、障害の特性、程度、期間または予想期間、その障害が長期的・永久的であるか否かを考慮の上決定されます。(29 C.F.R. s1630.2(j)) 障害の程度が重大であり、どのような措置を取ろうとも対象となる勤務が不可能である場合にはこの法律の保護を受けることができないことになります。また「合理的な便宜」(例えば薬や眼鏡、スケジュールの調整、休暇、その他の改善手段など)の助けを得れば支障なく職務を果たす能力がある場合、「障害者」としてこの法律で保護される可能性は低くなります。
問題となる具体的な欠陥にはどのような種類があるでしょうか。偏頭痛、膀胱炎、HIV、パニック症、腰痛、癌、白内障、鬱病、糖尿病、その他あらゆる種類の身体的・精神的欠陥が挙げられますが、この法律の保護を受けることができるか否かは、それらの障害の程度によるということになります。眼鏡や薬品の助けを借りて日常の主な活動にまったく支障がないという状態であれば、この法律が保護する「障害者」の範疇に入らないことになります。日常生活の主な活動または業務上の主な活動に関連して、この法律の下で「障害者」とみなされるか否かは、このように判断基準が微妙かつ極めて複雑です。
例えば、単なる肥満というだけでは「障害者」とはみなされませんが、肥満の程度が重大であったり(肥満度100%以上など)、肥満の結果高血圧、甲状腺障害その他の生理学的な症状がある場合には「欠陥」があるとみなされることがあります。HIV感染者の場合も、「障害者」としてみなされるための「欠陥」を有すると認定されるためには、実質的に日常生活上の基本的かつ主たる活動が制限されているという条件を満たす必要があります。(生殖機能を喪失したなど)
基本的に主な活動とは何を意味するのでしょうか。この法律の範囲における主な活動とは、平均的な者が実行できる活動である、考えること、注意を集中すること、手仕事、歩くこと、見ること、聴くこと、読むこと、話すこと、呼吸すること、学習すること、座ること、立つこと、持ち上げる動作、などを含みます。
雇用主(15人以上の従業員を雇用する)は、どのようにして「障害者」である従業員および休職者に適正に対処すれば良いのでしょうか。まず第一に、雇用者はAmericans with Disability Act (障害者差別禁止法)の存在を知り、企業としての一定の方針を有し実行しているということを示すために、具体的な「合理的な便宜」の採用・実行方法などの関連条項を盛り込んだ「従業員ハンドブック」を作成し、従業員に配布することが必要でしょう。もちろん、「ハンドブック」に記載したことを実行しなければ意味がありません。方針とその実行方法としては、従業員の側からの要求の提出方法の記述、その評価方法、雇用者側が採用する措置(合理的な便宜)の通知方法、当該措置の実行・維持管理方法の記述などを含む必要があります。
具体的には、雇用者は「障害者」と定義される者とそうでない者との間に雇用の点で差別的待遇をしてはならない、つまり、雇用の機会均等の原則に反してはならないということです。個別的には、採用、雇用継続中、解雇、レイオフなどの場合に、「障害者」を差別的に取り扱わないという方針を立て実行する必要があります。心臓麻痺を起こした従業員を1ヶ月後に解雇した雇用主が、「障害者」を差別的に取り扱ったという判決を下した判例があります(87 F.3d 26 (1st Cir. 1996)。ビールの中に小便を入れたと客に言った従業員に「アルコール依存症の治療を行わない限り解雇する」と言い渡した雇用者側が「障害者をその障害(アルコール依存症)を理由として差別的に解雇しようとした」意図があったとした一見奇妙な判例もあります。
職場での機会均等を保証すると同時に、雇用者は「障害者」に対して社内・外での社交的な機会に関しても「障害者」に機会を均等に提供する義務を負います。例えば、会社のパーティー、ピクニック、社内表彰式への参加を「障害者」に対して保証するために、会場の選択、準備、通訳(手話など)の手配を義務づけられます。会社の送迎バスなども「障害者」の利用の機会を保証するよう配慮する必要があります。雇用継続中の昇進の機会も均等に保証する必要があります。従業員用の健康保険の加入についても「障害者」に均等な機会を提供する必要があります。
Americans with Disability (障害者差別禁止法)の規定を理解し、適正に実施することは、「障害者」、「欠陥」、「機会の均等」、「合理的な便宜」、「不法な(過度)困難」、など、多くの用語の定義を多くの判例の中から正しく理解することが必要になります。具体的な問題に直面した場合は、EEC(「雇用機会均等委員会」)、弁護士・労働法専門家などにご相談ください。