2005年8月


  今回は、EMPLOYMENT ELIGIBILITY VERIFICATION (雇用資格証明)についてお話しましょう。1986年に成立したIMMIGRATION REFORM AND CONTROL ACT OF 1986 (“IRCA”)と1990年に成立したIMMIGRATION ACT OF 1990 (“1990 Act”)により、米国の全ての雇用主は(a)1986年11月6日より後に雇用された全ての被雇用者は、国籍にかかわらず、米国内で就業許可(WORK AUTHORIZATION)を有さなければならず、(b)このような許可は、それぞれの被雇用者の雇用が継続する期間を通じて有効でなければならなくなりました。今回は、この問題を雇用者の側からみてみましょう。


 具体的には、上記のような法的要求を満たすために、雇用者は何をしなければならないのでしょうか。まず第一に、雇用者は、個々の従業員について雇用資格証明書(I-9 FORM)を作成して保持しなければなりません。この要求を満たさず摘発されると、雇用者は罰則の対象になります。雇用者が従業員として雇用できる、米国内で報酬を得て勤務することを許されているのは、米国市民、永住許可を有するもの、外国籍ではあるが米国内で雇用されることをUSCIS(米国市民・移民サービス局)許可している者たちです。これらのカテゴリーが適用しない者を雇用することは許可されていません。しかし、また、これらのカテゴリーが適用する者たちに対して出身国や国籍により差別することは禁止されています。これは「違法滞在メキシコ人のように見える」というような理由でヒスパニック系米国人の雇用差別をする、というようなことは許されないということを意味しています。


 志願者が就業許可を有しているか否かは、特定の詳しく規定された書類を提示(提出ではないことに注意)してもらい確認するのですが、何を提示してもらうかという点でも注意が必要です。雇用者側の人事担当者は、「証明は必要でありながら、差別とみなされる行為は許されない」というかなり、難しい立場になるのです。このため、提示を求める証明書類も「XXとXXかまたはXXを見せてください」というような表現で書類を確認します。どれを提示するかはあくまでも志願者の側の選択にまかせます。必要以上に証明書類の提示を求めると、「差別した」という非難を浴びる、または訴訟を起こされたりする原因にもなりかねません。「ソーシャルセキュリティカード、および運転免許証を身分証明として同時に提示してください」というような要求は、過剰書類提示要求になります。I-9 FORM作成は、志願者の雇用が確定してから完成させることになりますが(雇用が確定し、勤務を開始してから3日間に完成させることが要求されます)、その経過で志願者に「国籍はどこですか?」とか米国市民の場合「もともとの出身国はどこですか?」などという質問をすると、後で「出身国、国籍差別」と非難される可能性があることに注意する必要があります。「出生証明書」を米国市民であることの証明に提示するよう要求することも禁じられています。もちろん「就業許可を持っていますか」と志願者に質問することは問題ありません。


 I-9 FORMの内容はどのようなものでしょうか。まず第一セクションはで、志願者は、米国市民であるか否かチェックする欄があります。住所、出生年月日、ソーシャルセキュリティ番号なども書き入れ、署名し、日付を入れます。日付を確実に書き入れることは非常に重要です。このセクションは、志願者自身が書きいれ、署名し、日付を書くことが要求されています。人事担当者が志願者に質問しながら書き込むという方法は適正ではありません。第二のセクションは雇用者側の人間が各証明書類をチェックした後に書き込みます。


 I-9FORMは、特定の被雇用者についてその被雇用者の雇用が3年間を過ぎた時点、またはその被雇用者が退社してから1年間を過ぎた時点のうち後の時点以降破棄することができますが、それまでは会社に保持する義務があります。言い換えると、従業員の雇用が継続している期間中、I-9FORMを破棄できないことになります。


 雇用者がよく直面する問題は、過去に退職してしまった被雇用者のI-9 FORMの保持を要求される期間を過ぎても保持し、USCISの調査があった際に書類の不備が発見されて罰金刑を受けたりするという例です。雇用者の人事担当者は、毎年ファイルを整理し、退社した者、被雇用者で上記の保存要求期間を過ぎた者に関するI-9FOMRを定期的に破棄するのが望ましいでしょう。個々の志願者が提示する当人の身分証明や労働許可を示す書類などは、コピーを保存しないほうが望ましいでしょう。それぞれの書類について、それが何であるか、発行日付など重要な情報を記録するのみで十分です。


 偽の証明書などを信用して雇用した者について、雇用者が後の時点で「偽書類を信用して雇用した」ことについて罰則の対象になることもありますので、注意が必要です。例えばソーシャルセキュリティカードなどについては、志願者が提示した番号を1-800-772-6270(ソーシャルセキュリティ・アドミニストレーション)に電話して確認することもできます。確認を怠って、後にSS番号が偽であったことが分かった場合は、雇用者の立場は悪くなります。就業許可があるか否かについての確認方法としては、CITIZENSHIP ATTESTATION VERIFICATION PROGRAMというプログラムを利用することもできます。このプログラムを使用すれば、雇用者は新しい従業員についてインターネットを使って無料で労働許可関連の地位をUSCISに確認できます。


 I-9 FORMは通常の人事ファイルとべ別に保存することが望ましいでしょう。また、個々の従業員について外国籍である場合、就業許可期間がいつ切れるかということが一目瞭然であるようなファイル保存方法の工夫の必要でしょう。その時点でI-9 FORMの記載事項追加または再作成する必要があるということを忘れないようにしましょう。(第三セクション)この時点は被雇用者は、雇用者に対して、当初の就労許可証(WORK AUTHORIZATION)の期間延長か新しい労働許可証を提示する必要があります。