2004年7月
 

 今日は、離婚時における軍人年金の分割についてお話しましょう。アリゾナはいくつかの空軍基地などがあるという事情のためか、米国軍人と結婚していた方が離婚に際して軍人年金の分割を求めるというケースがよくあるようです。


 日本でも最近やっと「相互に合意すれば離婚時に年金を分割し、高齢離婚で無年金または極端に少ない年金になる女性を減らそう」という動きが出てきたようです。日本の場合は、「相互に合意すれば」とありますので、多くの場合が実質的に「夫が合意すれば、妻にも年金を分割してもらえる」ということになります。つまり、まだ当然の権利としては確立していないことになります。理論的には、夫が「分割は納得できない」と主張した場合は、分割できないことになります。ご存知のとおり、アリゾナを初め多くの「コミュニティ・プロパティ(夫婦共有財産制)」の州では離婚の際に結婚期間中に得た財産に関しては「平等に分割する」というのが原則です。年金に関しても、結婚期間に比例して分割の対象になります。


 では、軍人年金の場合はどうでしょうか。最近の判例では、米国軍人が軍に勤務していた期間に応じて生じた年金受給の権利は、「夫婦の共有財産」と見られる方向の判例が多くなっています。例えば夫が軍に30年間勤務していた期間のうち20年間結婚していたとすると、この20年間に生じた受給権に関しては、離婚に際して妻が分割請求できます。この場合、日本と異なり、「夫が合意すれば」という条件はありません。裁判所で軍人年金の分割をめぐって争う場合でも、退役軍人が「年金は軍役についた当人のみが受給資格あり」と主張しても裁判所は分割命令を出します。実際の支払いに関しては、軍当局が取り扱っていますので当該当局に届出をしなければなりませんが、その際には裁判官が正式に署名した「裁判所命令(DECREE)」の真正コピー(裁判所のスタンプ付の正式文書)を提出する必要があります。


 軍人年金支払いを担当する当局は、裁判所命令に明確に夫と妻の年金受給比率または金額が提示・指示されていないと実際の支払いを開始しない場合もあります。離婚に際して、担当弁護士が事前にこれらの条件を明示した「裁判所命令(DECREE)」を作成することが、軍人年金分割受給をスムーズに実施する鍵となります。


軍人年金の担保としての性格


 離婚に際して協議し合意した、または裁判所命令として正式に指示された子供の扶養費(CHILD SUPPORT)やSPOUSAL SUPPORT(配偶者への支払い)が意図的、または一定の事情があり遅れたり、支払われなくなることも多いのですが、このような支払いの遅延や中止が起こった場合、未払いとなっている金額(借金をしているのとほぼ同じ状態)を上記のように毎月支払われる軍人年金の相手側取り分の中から取り立てることも可能です。そのほかにも、弁護士料金、その他の負債の返済など、相手側に支払い義務がある項目について、裁判所命令を勝ち取ることにより、未納・負債となっている金額を払い終わるまで、軍人年金から強制的に支払いさせることもできます。(江戸の敵を長崎で???)


 この場合、軍人年金の性質上、退役軍人の生活を守るためという本来の目的があるため、軍人年金の全額を借金、未払い金の取り立てのために相手側に強制的に支払わせるということはできません。法律で決まっている上限は65%です。つまり、妻に対して子の養育料などの支払いが遅延している場合、夫の軍人年金の65%までを本来分割されるべき金額(50%など)に上乗せして支払わせることができます。仮に相手が支払うべきであった金額が5000ドルであれば、65%という上限を守りつつ、未納分、未払い分の支払いが完了するまでの期間、15%増しの支払いを受けることができるのです。注意を要する点は、離婚した妻が元夫の軍人年金の分割支払いを受けることができる期間は、この元夫が生存中のみという条件付であることです。元妻の軍人年金受給はあくまでも軍人であった元夫の軍人年金受給権に従属するものであるために、特別な手続きを取らない限り、夫が亡くなり、当然のことながら夫の受給権が喪失した時点で元妻も軍人年金受け取り権利を喪失します。


 軍人年金の分割に関する判例は相当複雑であり、実際の分割の割合、軍人年金当局に提出する書類の作成などは相当な専門知識を必要とします。一般の離婚専門の弁護士でも軍人年金制度について詳細な知識がない場合が多く、実際の分割割合、支払い開始まで漕ぎ着けるためには、しばしばこうした軍人年金制度または年金分割の専門家と一般離婚弁護士との共同作業が必要になります。


 相手から一方的に離婚を申し立てられ、予備知識がないままに軍人年金の受給権の分割にまで注意が行き届かない場合もあるかもしれませんが、相手の言うままに「自分には受給権がない」と簡単に信じてしまうことがないようにいたしましょう。弁護士に相談することもできますし、弁護士を雇う経済的余裕がない人たちのためには、空軍基地などに軍人年金の受給などに関して無料アドバイスをしてくれる軍の弁護士などもおります。これらの軍の弁護士は、質問者がすでに弁護士を雇用している場合には、アドバイスしません。いずれにしても、「知らなかった」ために結果的に自分の年金受給権を無駄にしてしまうことがないようにご注意ください。


 また最近判明した興味深い事実ですが、死別の場合、軍人であった本人自身が「自分がなくなった後妻に年金を受ける権利を残さない」という選択をして、生前より大きな年金給額を受け取ったにもかかわらず、元軍人である夫が亡くなった後、妻は軍の年金制度から僅かではありますが一定の額を毎月受け取ることができると判明した例もあります。「無年金者」であると諦めてしまう前に、十分調査しましょう。