2011年7月
今回は、破産法第13章による破産、いわゆるChapter 13破産の効果について、実例を挙げて考察してみましょう。
アリゾナ州は、まだまだ失業率は9パーセント以上、全米経済も「上向いている」という政府の説明にも関わらず何が上向いているのか皆目わからないというのが実情のようです。アリゾナ州の不動産市場も、今後さらに物件の平均価格は下降し、Foreclosure(担保流れ・抵当権実施)もまだまだ増えるという予想が出ています。レイオフされた、事業がうまく回らず資金の手当てができないなどという話もよく耳にします。
2008年にバブルが崩壊するまでは不動産の価値も上昇を続け、自宅や事業用不動産のローン残高は物件の価値を相当上回り、エクイティ・ローンを借りて事業資金や大型消費に回すこともリスクを感じることなく広く行われていました。それまでの不動産の値上がりが今後も続くものと期待した人々の多くが、エクイティの価値をあたかも「銀行預金」であるかのように頼りにして高い生活水準を維持、事業を展開していたというのが実情でした。
時は変わり、3年後の2011年。不動産の価値(価格)は2002年現在の価格まで下降したと言われています。失業率は高止まりしており、ビジネスの倒産も減らず、世の中全体の景気が悪いため、またガソリン代その他物価の値上がりなどの影響と相俟って、消費者の購買意欲は一向に改善せず、小売り業、レストラン、ホテル、観光業などの売上も低止まりという現状です。
このような状況の中、失業、事業の停滞などにより、2,3年前までは苦もなく維持していた生活レベルを維持できず、住宅ローンやビジネスローンの毎月の支払いもできなくなり、先行きが真っ暗というような状況に至る人々も多数です。
全く収入がない、つまり失業保険も切れ、仕事も見つからずというような場合は、破産する場合でもChapter 7となるのですが、住宅ローンやビジネスローンの全額を支払って、生活を維持するだけの収入額はないが、ある程度の収入はあるというような場合は、Chapter 13の破産になります。
この1、2年に関わったChapter 13破産の例を見ると、当事者の状況が破産により極めて大きく改善した場合が多いという結果です。
もちろん最近ではいわゆる「Underwater」つまり第一ローンとホームエクイティ・ローンなどを合わせたローンの残高の合計が自宅などの不動産の価値(価格)より大きくなった状態で破産を宣言する場合が多くなっています。1年以上前に破産手続きに入ったあるケースでは、破産宣言の時点で家の価格が20万ドルとすると(数年前の購入価格は25万ドル、価格が最高となった2008年には40万ドルまで上昇したと仮定)、第一ローンが15万ドル、2008年当時借りた第二ローンが20万ドルという構成でした。現在のところ、破産裁判所の裁判官は物件の現在価格までローンの残高を切り捨てるという裁量を与えられていません。通常は、第二ローン残高の全額が担保から外れた場合を除き、第二ローンが部分的にUnderwaterでも担保から外れた部分をキャンセルして毎月の支払い予定を減額して申告することは許可されてはいません。
上記のケースの場合ですと、20万ドルの現行価格に対して、第一ローン残高15万ドルは担保されている一方、第二ローン残高20万ドルの内5万ドル分しか担保されていないということになります。第一ローンの優先順位が高く第二ローンは劣後ローンですから、20万ドル分のうち5万ドルしか担保されないという結果になるのです。しかし、Chapter 13破産の当事者によるTrusteeへの毎月の支払い計画では、厳密には第二ローンの額の全額が担保から外れてしまった場合を除き、第二ローンの一部または全額をキャンセルして支払計画に減額して組み込むという選択は現行法では許されていないのです。
しかし、上記の破産のケースでは、その辺は無視して「担保が残っている5万ドル分の毎月の支払い金額を計算し、その分のみ支払う」という構成にして毎月の支払い計画を提出しました。それに対する第二ローンの貸し手からの抗議はなされないまま時間が経過して行きました。おそらくこの貸し手(そして現実的にはどの貸し手も同様に)、関わる破産ケースやForeclosureのケースが多すぎて手が回らないというのが現状のようです。
1年余りの期間に、当初は勝手に計算した支払額を支払い、途中からは第2ローンの部分の支払いを中止してしまっていたのですが、第二ローンの貸し手からはなにも連絡がなく、不動産の価格は下降を続け、また自宅周辺では不動産のショートセールやForeclosureが頻繁に起こったという事情により、あっという間に問題の不動産の価値が第一ローンの残高15万ドルより低い価格まで下がってしまいました。つまり、第二ローンは時間の経過により担保された額がゼロになってしまったわけです。それと同時に、第二ローンの記録は消えてしまい、貸し手からの請求は一切ありませんでした。請求しても無駄ということを理解した上のことでしょう。
この結果に、当事者はもちろんのこと、相談に乗った私もびっくりしました。つまり、Chapter 13破産を宣言したことにより、第二ローンの20万ドルは完全に消滅してしまったことになります。定められた支払期間が終了した暁には、この破産当事者は第二ローンの支払い義務から逃れたことになります。不動産の価値は現在では底値に近いと思われますので、ここ数年のうちに少し回復する可能性もあるかと思いますが、このケースの場合、最も重要な破産手続き開始の理由は、なんとか家を保持し引っ越しをしないで済ませるということでしたので、その目的は完全に達成し、しかも20万ドルの第二ローンは消滅し、ローンの毎月の支払い額は第一ローンのみという当事者にとっては大変有難い結果となりました。これは、破産手続き開始時の当事者のきわめて楽観的な希望的観測を遙かに超えるレベルの幸運な(?)結果でした。このケースの場合は破産宣言したタイミングと引き続いての不動産価格の下落という幸運(?)に恵まれた結果でしたが、Chapter 13破産の威力を思い知らされたケースでした。
この他にも、Chapter 13破産の結果、第二ローンが完全にキャンセルされ、その上、第一ローンの毎月の支払い額2600ドル(仮定)でもまだ支払うことができないと訴え出て、貸し手の側から「それでは毎月800ドルという額を5年間は支払続けてください」という結果を引き出したケースもあります。このケースの場合、2007年頃の最高額で購入した不動産について35万ドル(購入価格38万ドル)の第一と第二ローンの借入合計額でしたが、第二ローンは事実上消滅し、第一ローンも通常の支払い額の数分の一という額まで毎月のローンの支払い額を下げてもらうことに成功しました。この家は5ベッドルームの巨大な家であり、同様な家を家賃月額$800で借りるということは不可能ですから、今後5年間は住宅の問題やローンの支払いに悩まされることなく生活できるというメリットを得たことになります。
巷では、オバマ政権が打ち出した毎月のローン支払い額を減額させるためのローンの借り換えプログラムは銀行側が全く協力しなかったために失敗に終わったというニュースが伝わっています。
高額のローン(優先ローン、劣後ローン両方合わせて)について毎月の支払いに困るというような事情をお持ちの場合、一度Chapter 13破産の可能性と実質的効果を調べてみるのもよいかもしれません。経済的に大変な状況になったら、絶望することなく、苦しみ過ぎることなく、米国では様々な合法的「敗者復活・救済の手段」が存在するということをお忘れなく。有利に使える手段が存在するなら、深刻に「わたしは人生の失敗者」とか「いっそのこと自殺してしまおうか」などと思い詰めることなく、楽になる方法を選択していただきたいものです。