2002年6月

 
電子商取引と課税


 今回は、E-Commerceと税金の話をしましょう。最近インターネットでの買い物をなさる方の数が増えてきました。皆さんは、このような買い物で税金を払っているのかどうかご存知ですか?いくつもの州境を超えて行われる取引には課税が行われているのでしょうか?課税されているとすれば誰が課税するのでしょうか。連邦政府でしょうか。商品を売っている業者の本社がある州が課税するのでしょうか?またはそれぞれの消費者が「取引をした」州、つまりその消費者が居住している州が課税するのでしょうか?取引そのものはどの州にも具体的に属さないインターネットというバーチャル・リアリティの中で行われるので、ある特定の州で取引が行われたと実際に言えるのでしょうか?さまざまな疑問が湧いてきます。最近、インターネットでコンピュータを買ってみて分かったことですが、まったく同じ取引でも州により課税する州としない州があるのです。極端な話としては、ユタ州の送り先に送れば無税となるというような例もあります。州境の人は、ちょっと車に乗り隣の州へ出かけて配達された場所にコンピュータを取りに行けば課税されないという奇妙な現象も起こります。なぜこんなことになったのでしょうか?


 インターネットによる商品、サービスの販売に関して課税すべきか否かは、これまでにもいろいろと議論されてきました。最近米国議会下院がInternet Tax Freedom Act (ITFA)を修正しましたが、修正後も法律的な観点からは基本的にベンダー(販売を行う者)が商品またはサービスを買った者が居住する州に「物理的に存在する(physical presence)」場合に課税の対象になるという原則は変わりません。この「物理的存在」が実は、曲者です。この言葉だけを見ると会社、商店などがない限り「物理的存在はない」と思いがちですが、その定義はかなり広範なものです。法律的な概念で消費者が居住する州に「NEXUS(関連)」があるとみなされると「物理的存在」があるとみなされることになります。もちろん各州は、できればインターネット上の商品・サービスの売買を新しい税の徴収源としてみていますから、このNEXUSをできるだけ広範に解釈して、できるだけ多くの業者または税を徴収しようとするわけです。インターネットで商品・サービスを販売する者は、リモート・ベンダーと呼ばれます。このリモート・ベンダーと消費者は、逆に何とか税を徴収されないままにインターネット上での取引を行おうとします。このようなオンライン上の商取引はまだ歴史が浅いので、課税の方針、実施について、その法律的な裏づけも確立していない状況で喧々諤々と議論が行われています。


 米国各州は、一般的に有形商品およびサービスの小売取引について売上税を課します。通常はベンダー(販売者)が税をカスタマーから取り立て州に収めることになります。そして、州内での使用、貯蔵、消費を目的として州外で行われた商品の取引については「使用税」を課税する州もあります。これにより、州民が州外で行う買い物も課税対象範囲に入れることができるのです。この場合は、州はそのような商取引をモニターできないために、州外ベンダー(リモート・ベンダー)に納税義務を負わせます。このような州外商取引が課税対象となるか否かが、前述の「NEXUS」の有無により決まります。「NEXUS」があるとみなされると課税対象となります。このような州外商取引は各州政府の監視が行き届かないところで「業者の自己申告」に依存した形で行われるために、少なくとも260億ドルの課税漏れがあるという推定もあります。不景気のために税歳入が大幅に減少して困っている全米各州にとり、この数字は大きな問題であり、将来的には各州ともできるだけ多くの州外取引を課税対象とするシステムを樹立すべく努力することになるでしょう。


アリゾナ州の例


 アリゾナ州は、一般にアリゾナ州で事業をする者に対してその売り上げの5.6パーセントの「Transaction Privilege Tax(取引特権税)」(「売上税」とは別)を課していますが、この納税は、消費者ではなく事業者の義務となっています。また、小売業者から貯蔵、使用、消費を目的として購入される商品にも「物品税または使用税」が課税されます。またリモート・ベンダーは、商品(有形動産)をアリゾナ州内での貯蔵、使用、消費を目的として州外で購入するアリゾナ州消費者に代わり、この使用税の納税義務を負います。
アリゾナ州で事業が存在するとみなされる基準として、アリゾナ州徴税当局(The Arizona Department of Revenue : ADOR)は次のような項目を挙げています。


1. アリゾナ州に1年当たり2日間以上従業員を有する。
2. 不動産・動産(Personal Property)をアリゾナ州内に所有またはリースしている。
3. アリゾナ州内にオフィスまたはその他営業する場所を維持している。
4. アリゾナ州外のベンダーが所有またはリースする車両を使用してアリゾナ州に商品を配達している。
5. 当該納税者(消費者)を対象とする市場を形成(これは簡単に言えば、商品を販売すること)または維持(販売し続ける努力をするということ)するために(この定義には、a)セールス活動、b)修理、c)支払い遅延売り掛け金回収、d)カスタマーが購入した商品の配達、e)製品の設置、f)当該会社またはカスタマーの従業員または代表者のための訓練を行うこと、g)カスタマーの苦情解決h)コンサルティング・サービスの提供、i)フランチャイズ契約促進または締結することを含む)、1年に2日以上アリゾナ州に独立の契約請負業者または非従業員である代表者を有する。


具体的には上記の定義は何を意味するのでしょうか。皆さんの中には観光・ビジネス旅行などの際に州外で買い物をしてアリゾナ州の自宅までFEDEX、UPS、郵便局などを使い商品を届けてもらったことがある方もあるでしょう。この場合、州外の商店がアリゾナ州にまったく関係がない(NEXUSがない)場合には、免税となったはずです。しかし、インターネットでコンピュータを買ったりしても、その販売業者がアリゾナ州に小売店を持っていたり営業所があれば課税の対象となったことでしょう。米国最高裁判所は、1992にDEFEX、UPS、郵便局などのいわゆるコモンキャリアを使って配送した場合には「NEXUS」があるものとはみなされない(504 U.S. 298, 1992)という判決を出しています。しかしコモンキャリアによる配送でも、州内に州外販売者の営業所があるとか、上記の条件を一つでも満たして「NEXUS」ありとみなされている業者のためにこれらのコモンキャリアが商品の配達を請け負う場合には、使用税を徴収する義務ありという判断がアリゾナ州でくだされていることも忘れてはならないでしょう。この「NEXUS」の有無に関しては州ごとに解釈が異なり、まだ定説がない状態ですから注意が必要です。州によっては「売掛金勘定」や「ロイヤリティ契約」の存在が「NEXUS」ありとみなす根拠として十分であるという解釈をした場合もあります。州外の業者とジョイント・ベンチャー契約を締結したことがその州に関係をもたないリモート・ベンダーが「NEXUS」を有するとみなされる根拠になることもあります。カタログ書籍販売業者が学校の教師に依頼して教育関連図書を生徒に販売する作業の助けをしてもらった結果教師がその業者の準「エージェント(代理店)」とみなされ「NEXUS」ありとみなされた例もあります。


皆さん中には、インターネット上でリモート・ベンダーとして商品・サービスを販売する方もあるでしょう。広範囲に販売取引が成立する可能性をもつ電子商取引ですから、結果的にどの州に対して納税義務を負うことになるのか明確でないこともあるでしょう。常日ごろから、商取引先がどの州に分布しているか記録し、それぞれの州の法律がどうなっているのか調べ、不注意で納税義務を怠り、後に膨大な追徴課税の対象、罰金の対象にならないよう注意してください。「免税」だから「商品・サービスを安く売ることができ、競争に有利である」とか「利益率が普通より高くなる」という観点から電子商取引で販売業者になる場合は、必ずしも納税義務を合法的に逃れる場合ばかりではなく、いずれかの時点で課税対象になる可能性があるということを認識してビジネス・プランを立てることをお勧めします。